営業時間(9:00-18:00 )
COLUMN
読み物
ステンレスの加工と方法|難しいとされる3つの理由と加工事例
ステンレス
2022.3.8
ステンレスは錆びにくい等の優れた性質がある一方で、とても加工が難しい金属とされています。これは、ステンレスの種類が関係しており、それぞれで特性が違うために経験や知識がとても重要なためです。
また、加工方法も切削や切断、溶接と様々あります。それら全てに注意すべきポイントがあり、押さえて加工しないと欠陥につながる可能性も高いです。
この記事では、ステンレスの加工に関する全般的な特性をまとめました。加工別でさらに具体的な内容を解説した記事と、当社のステンレス加工の実績も紹介していますのでご覧ください。
ステンレスの主な特徴と種類
ステンレスは英語で「stainless steel」と言い、日本語では「ステンレス鋼」が正式名称です。
主な組成は鉄(Fe)を50%以上、クロム(Cr)を10.5%以上、そして炭素(C)が1.2%以下と定義されており、さびにくい合金のため様々なシーンで使用されています。
製造技術や加工技術が発達し様々なステンレスが開発され、いくつかの種類に分けられています。ステンレスが共通して持っている特徴は以下の通りです。
- さびにくい
- 硬い
上記の特徴に加えて耐熱性や磁石につく性質を持つステンレスなども開発されています。
代表的なステンレスの種類
ステンレスは鉄(Fe)を50%以上、クロム(Cr)を10.5%以上、炭素(C)が1.2%以下の合金です。
主に以下の2つで細かく分類可能です。
- 化学成分による分類(13Crステンレス、18Cr-8Niステンレスなど)
- 金属組織による分類(オーステナイト系、マルテンサイト系など)
例えば金属組織の中でもマルテンサイトは結晶内にひずみが多数残った状態です。そのため硬い性質を持っていますが、加工もしにくくなっています。
それに対してオーステナイト系は鉄原子がぎっしりと詰まった状態で比較的柔らかく加工しやすいのが特徴です。
これらの方法によってステンレスは以下のように分類できます。
成分 | 金属組織 | 鋼種 | 特徴 | 用途の例 |
---|---|---|---|---|
Cr系 | マルテンサイト系 | SUS410
(13Cr) |
焼入れが可能 |
ボルト チェーン ネジ 器物 洋食器 |
フェライト系 | SUS430
(18Cr) |
一般的によく使用されている |
厨房用品 建物の内装 家電製品の外装 |
|
Cr-Ni系 | オーステナイト系 | SUS304
(18Cr-8Ni) |
一般的によく使用されている |
屋根、内外装の建材 化学プラントタンク |
SUS316
(18Cr-12Ni-2Mo) |
耐食性に優れる |
工業設備 圧力容器 水道管 |
||
SUS201
(17Cr-4Ni-6Mn) |
溶接性に優れる 耐力と硬さに優れる |
食器 鉄道車両部品 |
||
オーステナイト・フェライト系 | SUS329J1
(25Cr-4.5Ni-2Mo) |
耐食性に優れる 高強度 |
水門 排煙脱硫装置 海水用ポンプシャフト |
上記の表に書かれている通り、SUS430とSUS304は代表的なステンレスとして知られています。
SUS430とSUS304の細かい特徴の違いも確認しておきましょう。
耐食性 | 磁性 | 耐熱性 | 価格 | 光沢 | |
SUS304 | 優れている | なし | 優れている | 高い | 強い |
SUS430 | 劣っている | あり | 劣っている | 安い |
普通 |
しかしSUS430は500℃以上の高温環境では強度が落ちてしまうので、高熱にさらされる環境で使用するのには不向きです。
このようにステンレスには様々な種類があり、細かな特徴はそれぞれ異なります。ステンレスを使用、加工するときには用途に合った材料を選択するのが重要です。
性能を高めたスーパーステンレス
様々な種類があるステンレスの中でも、耐食性や耐熱性などの機能を高めたものをスーパーステンレスと呼びます。
スーパーステンレスは、さびにくさを表す耐孔食指数(PRE)が40を超えるものとされており、代表的な種類は以下の通りです。
鋼種 |
ステンレスの種類 |
耐孔食指数 |
NSSC270 |
オーステナイト系スーパーステンレス | 44 |
SAF2507 |
二相系スーパーステンレス |
43 |
SAF2707HD |
二相系ハイパーステンレス |
49.9 |
NAS354N | オーステナイト系スーパーステンレス |
47 |
スーパーステンレスは化学産業分野で使用されていましたが、ロレックスなどの高級時計の外装としても使用されています。ロレックスでは90年代頭くらいからスーパーステンレス「SUS904L」を採用しています。
ステンレスの加工方法とその内容
ステンレスを使用するときには、使用目的に合った加工を行う必要があります。ステンレスの加工方法を詳しく確認していきましょう。
切削加工
▲切削加工の事例
切削加工とは工作機械などを用いて、材料を削る、穴を空ける加工です。
ステンレスは一般的な鋼材料である普通鋼よりも硬く強度に優れているので、切削加工を行う際にはステンレス快削鋼を使用するのが一般的です。
ステンレス快削鋼には、以下の素材が添加されています。
- 硫黄(S)
- 鉛(Pb)
- セレン(Se)
切削加工のしにくさを数字で表す被削性指数もステンレスの種類別に異なるので、加工の細かさや難易度によってステンレスを選ぶのも良いでしょう。詳しくは次の記事をご覧ください。
≫ステンレスの切削性について|旋盤・フライス加工をする際のポイント
切断加工
三角
ステンレスを必要な大きさや形にカットするときには、切断加工を用います。
- バリを少なくする
- 加工後のゆがみを少なくする
上記をできるだけ減らした高品質な加工をするなら、知識や経験、設備が必要です。例えば工具や工作機械ではなく、材料と接触せずにカットできるレーザーカット加工を行えば、断面が美しい状態で切断できます。
≫ステンレスの切断加工|個人で行う場合の3つのポイントと注意点
曲げ加工
▲曲げ加工の事例
ステンレスに角度を付ける曲げ加工には、以下の種類があります。
- プレス曲げ
- ロール曲げ
- ベンダーを用いた曲げ
例えば曲げ加工を行ったときには、弾性分だけ元の形に戻ってしまうスプリングバックが発生します。
ステンレスは他の金属と比較してスプリングバックが大きいので、スプリングバックを見込んだ曲げ角度の設定をしなければなりません。
溶接
▲溶接の事例
複数の金属を溶かし1つに繋げるのが溶接です。ステンレスは以下の理由で溶接が難しいといわれています。
- ステンレスの成分や種類によって選択すべき溶接法が異なる
- 溶接時の熱によって材料の形が変わってしまう
- 溶接自体にも高い技術が必要
ステンレスの溶接法にはいくつか種類があります。
- 被覆アーク溶接:
- サブマージアーク溶接
- レーザ溶接
- ガス溶接
それぞれの溶接法にはメリット、デメリットがあるので加工物の大きさや種類によってベストな溶接法を選びましょう。
表面処理
内装としてだけでなく、外装としても使用されるステンレスは、表面処理によって様々な見た目に変えられます。
また表面処理を行い、表面を滑らかにすればよりさびにくくなる利点もあります。ステンレスの主な表面処理方法は以下の通りです。
- 塗装:焼付塗料と常乾塗料が可能
- めっき:銅やアルミニウムを用いためっき加工
- 化学発色:ステンレスに様々な色をつけられる
- エッチング:化学処理によって模様を付ける
ステンレスの加工が難しい3つの理由
ステンレスは日常生活の様々なシーンで使用されている合金です。使用用途が幅広く加工しやすいと言われることもありますが、実際には加工が難しい素材です。
ステンレスの加工が難しい理由を3つ紹介していきます。
加工硬化しやすい
オーステナイト、セミオーステナイトステンレスは、加工硬化しやすい特徴を持っています。
加工硬化とは金属に一定以上の圧を加えるとその金属が硬くなってしまう現象です。
- 切削加工
- 研磨加工
これらの加工を長時間行ってしまうと、ステンレス自体が硬くなり作業効率が悪くなってしまいます。材料が硬くなることによって、使用している工具が傷みやすくなってしまう欠点もあります。
熱伝導率が悪い
ステンレスは鉄よりも熱伝導性が低く、Cr系ステンレスは鉄の約2分の1、Cr-Ni系のステンレスは鉄の約3分の1の熱伝導率です。
そのため鉄を加工したときよりも、切削加工時に発生した熱が工具のチップ先端にこもりやすくなってしまいます。チップの先端温度が上がることによるデメリットは以下の通りです。
- 材料であるステンレスが熱の影響を受けてしまう
- チップが欠けてしまう
ステンレスを加工するときには、加工技術とステンレスに関する知識や経験が必要になります。具体的には、下記のような工夫が必要です。
- 切削油を大量に使用する
- 大きいバイトを使用する
- 切削速度は遅くして熱を逃がしやすくする
- ステンレス快削鋼を使用して加工する
工具との親和性が高い
ステンレスは工具との親和性が高いという特徴を持っています。工具との親和性とは、切削加工により生じた金属くずが工具に着きやすい状態を指します。
金属くずが工具に着きやすいことによるデメリットは以下の通りです。
- 金属くずがはがれるとき、工具の一部分を一緒にはがしてしまう
- 金属くずが工具に溶着したままの状態で切削加工が続いてしまう
上記により工具の状態が悪くなってしまうと、加工精度や効率が下がってしまいます。
ステンレス加工の事例を紹介
新進ではステンレスを始めとした扱いが難しい金属加工を行っています。いくつか新進で過去に行った加工事例を紹介いたします。
▲大型のステンレス材(主な加工:切削加工、表面加工)
▲非常に小さいステンレス部品(主な加工:切削加工)
▲図面に忠実かつ正確な部品の精製(主な加工:切削加工、表面加工)
▲複雑な形の部品も加工可能(主な加工:切削加工)
▲ねじ状の加工(主な加工:切削加工、表面加工)
ステンレスはさびにくく、強度に優れているので建造物の内装や外装建材、鉄道車両部品、工業製品のボルトなど様々な場面で使用されています。その一方で加工硬化しやすく熱伝導率が悪い、金属くずが工具と溶着しやすいなどの理由で加工が難しい素材でもあります。
ステンレスを材料として使用、加工するときには作りたいものに合った種類や加工方法を選ぶのが大切です。ステンレスの加工でお困りの場合は、株式会社新進へお気軽にお問い合わせください。
関連記事