営業時間(9:00-18:00 )
COLUMN
読み物
ハステロイの溶接は難しい|3つの理由と注意するべきポイント
ハステロイ
2022.3.12
ハステロイは耐食性・耐熱性ともに優れた素材で、航空宇宙分野や工場炉等の様々な箇所に活用されています。
しかしハステロイの溶接は難しく、「なぜかうまくできない」「ピンホールができてしまう」と悩む声が多く聞かれます。
当記事ではハステロイの溶接が難しいと言われる3つの理由を素材特性を元に解説し、さらに注意したい3つのポイント「開先角度」「溶接部の清浄」「溶接温度」についても紹介します。
注意するポイントを押さえることで、溶接する際の不安が解消されます。
ハステロイの溶接が難しい3つの理由
ハステロイの溶接方法には下記の5つがあります。
- ティグ溶接
- ミグ溶接
- 被覆アーク溶接
- サブマージアーク溶接
- 電子ビーム溶接
いずれも、炭素鋼やステンレス等の金属加工に使用されるポピュラーな溶接方法ですが、ハステロイ溶接では特性に合わせたテクニックが必要とされます。そのため金属加工会社の中でも「ハステロイは無理」と断る業者もいるほど。
本項目では「ハステロイ溶接は難しい」と言われる3つの理由をハステロイの特性とあわせて解説します。
流動性が低い
ハステロイは流動性が低く、加工者からは「動きがのろい」「粘りがある」と表現されます。流動性が低いと、溶け込みが浅くなったり、「溶融池」が見にくいという問題が起こります。
ちなみに「溶融池」とは溶けた金属がドロっとしているポイントを指します。
高温割れが生じやすい
ハステロイはNi(ニッケル)基合金の一種のため、溶接部が欠損する「高温割れ」が起こりやすい特性を持ちます。
Ni基合金は「完全オーステナイト(鉄のγ鉄に炭素や合金元素などの他の元素が固溶したもの)」の特徴から高温割れが起こるため、溶接温度のコントロールが難しく、経験が必要となります。
耐食性を損いやすい
ハステロイの溶接を高温で行うと、高温割れにつながるだけでなく耐食性を損ない、品質低下が起こります。
溶接を高温で行うと、Ni基合金特有の「粒界析出(りゅうかいせきしゅつ)」が起こり、ハステロイが本来持っている強い耐食性を発揮できなくなります。
ちなみに「粒界析出」は本来ある原子の並びが乱れ、別の物質になってしまうことを言います。
ハステロイの溶接には、流動性の低さや高温下で欠陥が起こりやすいこと、温度に気を配らなければ耐食性を低下させてしまう問題があるとわかりました。したがってハステロイの溶接は誰にでもできる作業でなく、熟練の技術やコツを掴むことが欠かせません。
次の項目では、ハステロイをうまく溶接する際に押さえたいポイントを見ていきましょう。
ハステロイを溶接する場合に注意するべきポイント
▲ハステロイ製品。内側の溶接は作業がやりにくく手元も見にくいため特に難しい。
ハステロイは耐食性・耐熱性に優れている反面、デリケートな材質のため加工は難しいです。しかしハステロイの特性を踏まえて溶接を行えば、溶接欠陥を防げます。
ここからはハステロイの溶接の際に知っておきたいポイントを3つ紹介します。
開先角度を小さくしすぎない
厚い素材を溶接する際には素材に「溝」を作り、溶接金属が下まで届くよう工夫が必要です。この溝を「開先」といい、開先角度は溝の角度を指します。
溶接部をしっかり清浄する
ハステロイはNi(ニッケル)基合金のため、ブローホール(空洞)が発生しやすい特徴があります。したがって溶接作業前には必ず有機溶剤を使い清浄をしておきましょう。
またハステロイは難削材のため手間がかかりますが、切断面が荒いと溶接時に不純物が残りうまく溶接ができません。したがって開先面は滑らかにすることも、あわせて注意したいポイントです。
溶接入熱は低温〜中温にする
ハステロイの溶接は入熱温度が高いと素材の性能が低下し、本来持っている腐食性を発揮できません。したがって、溶接する際の温度は低温~中温が適しています。
しかし、低温で溶接をすると部材の溶け込みが浅くなり、溶接不良を起こす可能性があります。
常温下なら予熱は必要なし
部材の機械的性質の低下やブローホールを防ぐため、あらかじめ予熱を入れたいところですが、ハステロイの場合は常温下であれば必要ありません。
ただし、冬場に屋外の倉庫から室内まで素材を持ってきて溶接する場合は、結露が発生して品質の低下を引き起こす可能性が高いです。
その場合は、部材を室温よりもやや高い温度まで温めておくと、高い品質を保ったまま溶接が行えます。
ハステロイの溶接は難易度が高く、技術と経験が必要です。今回のポイントを踏まえて溶接を行ってもうまくいかない場合は、ぜひ弊社へ一度ご相談下さい。