営業時間(9:00-18:00 )
COLUMN
読み物
析出硬化系ステンレスとは?|種類や成分、熱処理方法や用途を解説
ステンレス
2025.1.29
析出硬化系ステンレスとは、ステンレスに特定の元素を添加し、析出硬化という仕組みを利用して強度や耐食性を高めたものです。
析出硬化は英語で「Precipitation Hardening」なので、PHステンレスとも呼ばれています。
他のステンレスと比べて強度がとても高いため、航空機やロケットなどにも使用されていますが、コストも高くなるのがデメリットです。
この記事では、析出硬化系ステンレスの特徴や種類について解説しました。物理的・機械的性質も紹介していますので、最後まで読めば概要はすべて把握できるはずです。
析出硬化系ステンレスとは?
析出硬化とは、金属表面の強度や耐食性を高めるための熱処理方法のことです。炭素の化合物である炭化物の代わりに、銅(Cu)やアルミ(Al)などを添加して化合物を作って硬くしています。
析出硬化系は二相系と同じく、他と比較すると高価なステンレスです。これは原材料が高いことに加えて、工程の複雑さや製造難易度が高いことが影響しています。
析出硬化と時効硬化の違い
析出硬化と時効硬化は、どちらも金属の強度を高めるための熱処理方法のことです。現在ではどちらも同じ意味として使われるケースが多いですが、基本的なメカニズムは違っています。
- 析出硬化(Precipitation Hardening)
合金中の溶解した成分を熱処理で析出し、金属内部で粒子を形成させることで強度を高める方法
- 時効硬化(Age Hardening)
合金中の成分を熱処理で溶解した後、低温で時間をかけて徐々に析出させる方法
なお、析出硬化は主に高強度が必要な場合に行われ、時効硬化はアルミ合金に多く使われる方法です。
析出硬化系ステンレスの種類と成分
主な析出硬化系の種類とそれぞれの成分は以下の通りです。
析出硬化系は別名で「PHステンレス(Precipitation Hardening Stainless Steel)」とも呼ばれています。
そのため、SUS630はクロム(Cr)を約17%、ニッケル(Ni)を約4%含有していることから「17-4PH」とも言われています。SUS631も「17-7PH」と言われ、理由は同じくクロムとニッケルの含有量です。
析出硬化系の熱処理方法
析出硬化系の基本的な熱処理の流れは次の通りです。
- 溶解処理
- 急冷(水冷)
- 析出硬化処理
まずは1,000〜1,100℃ほどの高温で加熱して合金元素を溶解させ、急冷することで固溶化熱処理を終えます。その後、空冷することにより析出物を形成させ強度を高める、という流れです。
ただし、加熱する温度と空冷の方法により、耐力や引張強さ等が変化します。以下に各析出硬化系ステンレスの種類と、熱処理の条件を一覧にしました。
析出硬化系ステンレスの各特性
析出硬化系はオーステナイト系など他のステンレスとは異なる特性があります。以下3つの内容に分けてそれぞれ解説します。
- 物理的性質
- 機械的性質
- 耐食性
物理的性質
析出硬化系の物理的性質は次の通りです。
引用:ステンレス鋼大全|日刊工業新聞社
ステンレスの多くは比抵抗が0.6〜0.7μΩ·mなので、析出硬化系は比較的電気を通しにくいと言えます。
また、SUS630とSUS631を比べると線熱膨張係数が大きく異なっており、同じ種類でも違った性質を持っています。
機械的性質
析出硬化系の機械的性質は次の通りです。
析出硬化処理により強度が高まっているため、耐力や引張強さはかなり高いです。オーステナイト系の耐力は約200N/mm²、引張強さは約500N/mm²ですので倍以上の数値になっています。
耐食性
ステンレスで耐食性が高いのはオーステナイト系です。しかし、析出硬化系はオーステナイトを元に改良されたため、ステンレスの中では比較的耐食性が高いと言えます。
耐食性は硬度に反比例するのが基本です。析出硬化系は高い硬度と高い耐食性を持っており、バランスの良いステンレスとして多くの場所で使用されています。
析出硬化系ステンレスの用途
析出硬化系は高い強度と耐食性、加えて溶接性も良いステンレスです。そのため、厳しい条件でも使えるので用途が広くなります。
以上です。株式会社新進では、析出硬化系を始めとしたステンレスなどの金属加工をコーディネートしています。
以下ページよりお気軽にお問い合わせください。